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コンニチハノハハ ホントウニハカ
夕焼けでした。見渡すばかり真っ赤な道を、べっちゃんとぺっちゃんが歩いています。何の事は ありません。放課後思いっきり運動場で遊んだ後、家に帰っている途中です。ぺっちゃんがべっちゃんに言いました。 ―べっちゃん。僕ね、昨日お手紙もらったんだ。 ―ふうん、誰から? ―お隣のおばさんから。 ―どんな切手貼ってあった? ―緑の鳥が飛んでいる、白い切手だよ。 ふうん。ってべっちゃんは言いました。ぺっちゃんはまだ続けます。 ―べっちゃん、人とおしゃべりする時はまず挨拶をするよね。 ―うん。お手紙でもね。 そうそう。とぺっちゃんが嬉しそうにうなずきました。 ―でね、べっちゃん。おばさんは、「コンニチワ」のことを『こんにちは』って書いていたよ。 べっちゃんは靴に当たった小石を思いっきり蹴飛ばしました。小石はぽーんと弾んで、どこかに 行ってしまいました。夕日が小石を飲み込んでしまったのです。 ―コンニチハ。 ぺっちゃんも言います。 ―コンニチハ。 べっちゃんとぺっちゃんはくすくす笑いました。電信柱に止まっていたからすが、ぐぁぐぁと泣 きました。涙がぽとり、赤く輝く水たまりに落っこちました。 ―どうしてかな? −おばさん間違えたんじゃない? ―おばさんは間違えないよ。大人だもん。 ―大人はよく間違うよ。知っていることが多いから。 今度はぺっちゃんが靴に当たった小石を蹴飛ばしました。小石はポーンと弾んで、マンホールの 中に落ちてしまいました。 ―どうなんだろう?こんにちは、こんにちは。どっちもいっしょかな。 ―いっしょじゃないよ。こんにちは、こんにちは。 べっちゃんとぺっちゃんは考えました。でも答えはわかりませんでした。 ―分からないから、誰かに教えてもらおう。 ぺっちゃんがそう言うと、夕日の向こうから偉そうな武士が歩いてきます。刀兜鎧を身につけて、 ふんぞり返って歩いてきます。だって兜がとてつもなく重いからです。刀のさやが、赤い光を受け て真っ赤に染まっていました。武士はひげも赤く染めています。ざくろをつぶしたような色でした。 べっちゃんが、武士に聞きます。 ―どうしてコンニチワのことを、こんにちはって書くのか知っている? 武士は顔をも赤く染めて、赤く染めたひげを撫でました。 ― こ レハコレハショウグ ん サマ、にち ヨウビナノニオ は ヤイデスナ。 べっちゃんとぺっちゃんがじぃっ、と武士の顔を見ていると、武士はこれ以上ないくらいに真っ 赤な顔をしました。もうひげと顔の区別がつかないほどでした。 ―という訳で、コンニチハの は は、 は と書くんだ。それでいいんだ。 こう言うと、武士はそそくさと向こうに行ってしまいました。 ぺっちゃんは言います。 ―僕たち将軍に挨拶したりしないよ。それでも は は はって書くのかなぁ。 ―日曜日以外に会ったらどうするんだろうね。 べっちゃんも言います。 すると、夕日の向こうから今度は偉そうな貴族が歩いてきます。真っ赤な烏帽子を頭にかぶり、 真っ赤なしゃくを持っています。目をつむったまま、しずしずと歩いてきます。 今度はぺっちゃんが聞きます。 ―どうしてコンニチワのことを、こんにちはって書くのか知っている? 貴族は細い目をちょっとだけ上げると、赤いしゃくで口を隠しながら言いました。 ―今日は良いお天気ですね。と言うのがめんどくさくなって、今日は だけを言うことになった。 だから今でも、コンニチワを今日は、つまり こんにちは と書くのだ。 貴族はそう言うと、向こうにしずしず歩いて行ってしまいました。 べっちゃんは言います。 ―今日が雨だったらどうするんだろうね。 ―昨日の事を一番に言ったら、僕らはきのうは、って挨拶してたのかなぁ。 ぺっちゃんも言います。昨日の難しい言葉が思いつかなかったので、最後の方はもにょもにょと 言いました。 べっちゃんとぺっちゃんは、坂道に差し掛かりました。べっちゃんとぺっちゃんはここで曲がり ます。これから先は、夕日はべっちゃんとぺっちゃんの右から差してきます。 そこで、べっちゃんとぺっちゃんは猫に会いました。いつも坂道の交差点で眠っている黒猫でし た。真っ黒な毛に、真っ赤な夕日が差し込みます。それは、まるでトランプのようでした。 最後に、べっちゃんとぺっちゃんは猫に聞いてみました。 −どうしてコンニチワの事を,こんにちはって欠くのか知っている? すると猫は燃える毛を逆立てて言いました。 −ん は アンニョハシムニカのン、に は ニーハオのニ、ち はチャオアウムのチ、でも わ がどうしても見つからなかったから、ハロゥのハで、ワって読むようにしたのさ。 べっちゃんとぺっちゃんはもう一度聞きました。
―こ は何?
黒猫はあくびと一緒に答えました。
―こんにちはのコだよ。
べっちゃんとぺっちゃんは満足して、夕日の中をおうちに帰っていきました。 |